一隅を照らす
代表のメッセージ 2025年11月1日掲載
先日、尊敬する知人から二つの心温まるお話を伺いました。どちらも何気ない日常の中で起こった出来事ですが、人の優しさや思いやりが伝わってくるものでした。
一つ目は、白杖をついた目の不自由な初老の方が道に迷って立ち止まっていた時のことです。多くの人がその脇を通り過ぎていく中で、ある方が足を止め、「大丈夫ですか」と声をかけてくださったそうです。その方は、ゆっくりと寄り添いながら、病院の入り口まで案内してくれたとのこと。迷われていた方にとって、心強く有り難い助けだったと思います。
もう一つは、ある公共の通りでのことです。ゴミが散乱している場所を見かけた方がいました。そこは決してその方ご自身の関係する区域ではなかったのですが、「このままではいけない」と思い立ち、黙って掃除を始めたそうです。その姿を見ていた若い方が、「手伝わせてください」と声をかけ、二人で一緒に通りをきれいにしたといいます。
私は知人にこの二つのお話を伺いながら、「本当に大切なことは何なのか」と考えました。そして、自然と「一隅を照らす」という言葉を思い出しました。これは、最澄(伝教大師)が『山家学生式』の中に古人の言葉として引かれたものです。
「一隅を照らす」とは、「どんな立場、場所にあっても、自分の置かれた一隅(自分の持ち場)を誠実に照らす人こそ、国の宝である」という趣旨の言葉です。
誰かが困っている時、勇気を持って言葉をかけたり行動する行為は、本当に尊く、とても素晴らしいことです。そして、企業やスポーツ、あらゆる組織においても、「一隅を照らす」言動をしてくれる方の存在は、極めて貴重で大切です。このような存在の方がいる企業やチームかどうかで、その組織のパフォーマンスは大きく変わってしまうものです。
この度、知人から有り難く教えていただいたお話のように、一つひとつの親切な言動が周りの人の心を温かくし、またその次の優しさを生み出していきます。
最初は、小さな行いと思えるかもしれない行いの積み重ねが、社会全体、いや、世界全体をも少しずつ明るくしていくのだと信じ、私自身も実践していきたいと考えています。
「一隅を照らす、此れ則ち、国宝なり」
私自身、肝に銘じると共に、多くの方にもお伝えしていきたい言葉です。
参考文献:
「私の人生観」(田中良雄著 四季社)
「職業と人生」(田中良雄著 ごま書房)
