インドから優れたIT人材が輩出される背景には何があるのか
代表のメッセージ 2025年9月1日掲載
1、インド視察について
今回の9月号では、今年の春に訪問したインド南部の都市、チェンナイとバンガロールで学んだこと、感じたことをお伝えしたいと思います。
インドと聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。ガンジー、ヨガ、仏教の発祥の地、あるいは「カレーの国」「人口が多い国」「優秀なIT人材を輩出する国」など、さまざまに思い浮かべられるのではないでしょうか。
このたび、長年お世話になっている企業様のご紹介により、インド工科大学マドラス校(IIT Madras)や、インドに本社を置く世界的なIT企業を訪問する貴重な機会をいただきました。
私は教育に携わる中で、
- 「インドから優れたIT人材が数多く生まれる背景には何があるのか」
- 「なぜ世界的IT企業のトップにインド出身者が多いのか」
ずっと知りたいと考えていましたので、それを探るよい機会となりました。
2、インドの全体像について
①人口
インドは日本の約9倍の国土を有し、人口は14億人を超え、現在は世界最大です。2023年半ばには中国を追い抜き、人口世界一となりました。
人口構成を見ると、15歳未満が約25%(約3億6,000万人)、生産年齢人口(15歳~64歳)が約68%(約10億人)を占めています。人口ピラミッド(※下図)からも若年層の多さが明らかであり、今後の経済成長を支える豊富な労働力を有していることが理解できます。


(※ インドと日本の人口ピラミッド 出典:国際連合人口部(United Nations Population Division)*世界人口推計2024年版の中位推計より)
②言語・多様性
インドには22の公用指定言語があり、さらに調査によれば日常的に使われる言語は800以上にのぼります。
視察の際にお会いした現地の方は、
「インド国内であっても他の地域に行くと全く話が通じません。インド人もびっくりなのです」
と面白おかしく話してくださいました。
このような言語的多様性のため、コミュニケーションを取る上では共通言語が不可欠となり、ヒンディー語と英語が公用語として用いられています。
また、別の方はこう表現されていました。
「インドという国は、国内にEU(欧州連合)の国々が集まっているようなものです」
実際に現地を訪れてみて、インドは言語、宗教、民族、地域ごとの文化や歴史、さらには気候や地形まで多様であり、その結果、生活様式や祭り、芸術に至るまで地域ごとに大きな違いがあり、世界でも有数の多様性のある国であることを実感できました。
3、インドから優れたIT人材が輩出される背景
インドから優れたIT人材が数多く生まれる背景には、いくつかの社会的・教育的要因があります。
① 大学入試における厳しい競争
まず教育面では、今回訪問したインド工科大学(IIT)をはじめとする理系大学が世界的に高い評価を受けています。入学試験は極めて競争が激しく、限られた合格枠をめぐって優秀な学生たちがしのぎを削っています。その結果、大学には国内屈指の人材が集まり、切磋琢磨する環境が整っています。
② 公用語としての英語
次に、英語が教育やビジネスにおいて広く用いられている点も大きな強みになっています。加えて、前述した「インド人もびっくり」というほど言語の多様性が非常に高いインドでは、異なる地域の人々が意思疎通を図るために英語が不可欠となります。こうした背景から、多くの学生が自然に英語を習得し、国際的な舞台で即戦力となり得ます。
英語力は、国際的なIT市場で即戦力となり、海外企業とのやり取りや最新技術の習得をスムーズに行える環境を生んでいます。このため、インドのIT人材はグローバル企業で活躍しやすく、世界中から需要があります。
③ カースト制と社会的動機
さらに、社会的背景としてカースト制の存在も無視できません。伝統的に職業が制限されてきた社会の中で、ITや理系分野はカーストの影響を受けにくく、実力や成果によって評価されやすい領域です。そのため、多くの学生が「この分野で成功することで社会的地位を高めたい」という強い意欲が働いていると考えられます。今回、訪問させていただいたインド工科大学マドラス校で出会った学生からは、まさにそのハングリー精神が伝わってきました。競争心と努力の積み重ねが、優れたIT人材を生み出す土壌となっているのです。
④ 地理的・時間的条件
また、地理的・時間的条件も有利に働いています。インドがIT産業で成功を納めた理由の一つに時差があると言われています。特にアメリカ東海岸との時差は約12時間あり、欧米企業が夜に終えた業務をインドの人材が昼間に処理することで、24時間体制の業務運営が可能となります。この“時差の強み”が、インドのIT産業が国際競争力を高める一因となっています。
4、最後に
今回、インドを視察する機会をいただき、「競争の激しい教育制度」「高い英語力」「社会的動機」そして「地理的条件」という複合的な要素によって、同国が継続的に優れたIT人材を輩出していることを理解できました。
事実、現在、世界の名だたるIT企業である、マイクロソフト、アルファベット(Googleの親会社)、IBMといった世界的IT企業のCEOはいずれもインド出身者です。
視察を通じて、健全な競争の重要性、英語(語学力)の意義、そして、何より精神性の点において、日頃大事であると考えていることをあらためて認識することができました。今回の訪問で出会えた皆様に、心より感謝申し上げます。